英理は妙に明るい顔をして口を開き、少し考えた様子で話し出した。
「そんなに言うなら。アンタの下宿先に行ってもいいけど……条件があるわ」
寒さで赤く染まった鼻を摩りながら英理は言った。
「……条件?」
「私は小五郎の友達にはなれないの。
……どうしてだか当ててみて?」
人差し指を突き出して英理は、先ほどのくしゃみのせいか、目に涙をためたまま笑った。
「……は?」
英理は何を言い出したのか、何が言いたいのかがわからずに小五郎は腕組みをして考える。
「ヒント。私、アンタが女だったらよかったなって思うの。もしそうだったら、一生の友達になれたと思う」
「……はぁ?」
英理が言わんとすることが分からずに、小五郎は首を傾げた。
「まだわかんない?二つ目はねえ。アンタをこの公園で見かけるのは、私、とっても嫌だった。デートは目の届かないところでやってよ。あ、これは苦情よね」
「……」
「三つめはね……」
英理は言葉を詰まらせる。もうほとんど涙声だった。
「……たぶん小五郎に会うのは、今日が最後になると思う……」
英理の瞳に溜まった涙がついに零れおちた。
小五郎はまさか、という気持ちと嬉しさと可愛さとやっぱり嬉しさと…様々な感情が込み上げて胸がジワリとあたたかくなり、ほころぶ口元を手で覆い隠した。
「もうっ!いい加減気づきなさいよ!この鈍感!!バカ!!」
嫌い!と振り上げられた腕を取り、英理の体を強引に引き寄せた。
何か言いかけた英理の唇を思い切り塞ぐ。正真正銘初めてのキスだった。
触れた唇の柔らかさが心地よくて頭の芯が溶けそうだ。
暴れようとする英理を強い力で抑え込み背中をそっと撫でると、やがて体の力は抜けた。
離れがたい唇をゆっくりと遠ざけると、英理の熱のこもった瞳に見つめられ、小五郎は言葉が出ない。
なにか文句でも言うかと、さらに奥を見つめるが、英理の瞳は静かに揺れているだけだった。
欲張ってもう一度恐る恐るゆっくりと唇を合わせ、ちゅ、と音を立てて吸い付くと甘い唾液の味がした。
好きだ。
好きだ。
好きだ。
手で覆った英理の頬がますます濡れているのに気がついて小五郎は慌てて体を離した。
「悪い……つい……」
「……どうして」
英理のかすれた声に、小五郎は顔を覗き込む。
「見ないでお願い。こっち見ないで!」
混乱して手をバタつかせ、目を白黒させる英理。浮かんでいるのは拒絶ではなく戸惑いの色だった。
ポロポロと涙をこぼして震える英理に、胸の奥から愛おしさがこみ上げる。
理性よりも男としての本能が勝り、唇が吸い寄せられるのを止めることができなかった。
制服のシャツを掴む小さな震える手、瑞々しく柔らかくほんのり甘い唇。
こんなに美味いものを他に知らなかった。
指先が快感でしびれる。
止められない。
シャツを握る英理の手に力がこもる。
止められない。
長年のせき止められた想いが溢れて出て、何度もキスを繰り返した。