一万回のキス ~高校生編~ 7last




 好きで。

 想い焦がれた男に強い力で抱きしめられてキスをされ、英理はわけがわからず思考が止まる。

 こっちはファーストキスだというのにまるで容赦のない幼なじみ。

 それに文句を言う間も、寂しさを感じる余裕も、いまの英理にはなかった。

 小五郎の彼女のことが頭から飛びそうになるくらい、情熱的な小五郎の口付けに英理は翻弄されていた。




 しばらくして小五郎に解放された英理は、フラフラとベンチに座り込んだ。
 のどの奥から声がなかなか出てこなかった。

 「……か……」

 「か?」

 「彼女にわるい……」

 じわじわと込み上げてきた罪悪感に、英理の顔に暗い影が差した。

 「……カノジョって?」

 「……アンタの、彼女よ」

 何を今更と英理が小五郎を見ると、小五郎はニヤリとした笑みを浮かべた。

 まさか、嘘でしょう?
 英理の頭にひとつの可能性がよぎる。

 「だって、だって。あの人は?あのショートカットの年上のひとよ!」

 「あぁ、あれは……」

 昔よく見た、覚えのあるイタズラ小僧の顔だった。

 「家庭教師。机の前じゃ集中して勉強できねーから、時々ココ使ってたんだ。居心地いいもんな」
 
 機嫌が良さそうにニカっと笑う小五郎に、英理は眩暈がするようだった。

 「……なんてこと……」

 「忘れてるようだけど。俺たちは受験生だったんだぞ」

 そう言って真面目な顔を作ってダメ押しする小五郎に、英理はベンチに座りながら倒れそうになる。

 「勝手に勘違いしてくれて、清々して留学するかと思ったけど。……しねーんだもんお前」

 そうだ、あの時。はじめてこの公園で二人に会った時、小五郎は一言も彼女とは言っていなかった。

 あんなデマに半年も振り回され、告白までさせられた自分が滑稽であまりにも憐れだ。
 早く家に帰ってせっせと穴を掘ろうと思った。

 「……私って」

 嘘をつかれたわけじゃない。小五郎の巧妙なやり口に怒るわけにもいかず、居たたまれなくなった英理はスクッと立ち上がった。

 「まだ行くなよ……」

 小五郎は英理の手を強く握った。

 「これからは……俺のそばを離れるなよ」

 間近に迫る顔。真面目な顔でそう告げる小五郎に英理は降参し、今度こそ膝から崩れ落ちたのだった。









END


長々とした話を読んでいただき、ありがとうございます!
リオ