好きで。
想い焦がれた男に強い力で抱きしめられてキスをされ、英理はわけがわからず思考が止まる。
こっちはファーストキスだというのにまるで容赦のない幼なじみ。
それに文句を言う間も、寂しさを感じる余裕も、いまの英理にはなかった。
小五郎の彼女のことが頭から飛びそうになるくらい、情熱的な小五郎の口付けに英理は翻弄されていた。
しばらくして小五郎に解放された英理は、フラフラとベンチに座り込んだ。
のどの奥から声がなかなか出てこなかった。
「……か……」
「か?」
「彼女にわるい……」
じわじわと込み上げてきた罪悪感に、英理の顔に暗い影が差した。
「……カノジョって?」
「……アンタの、彼女よ」
何を今更と英理が小五郎を見ると、小五郎はニヤリとした笑みを浮かべた。
まさか、嘘でしょう?
英理の頭にひとつの可能性がよぎる。
「だって、だって。あの人は?あのショートカットの年上のひとよ!」
「あぁ、あれは……」
昔よく見た、覚えのあるイタズラ小僧の顔だった。
「家庭教師。机の前じゃ集中して勉強できねーから、時々ココ使ってたんだ。居心地いいもんな」
機嫌が良さそうにニカっと笑う小五郎に、英理は眩暈がするようだった。
「……なんてこと……」
「忘れてるようだけど。俺たちは受験生だったんだぞ」
そう言って真面目な顔を作ってダメ押しする小五郎に、英理はベンチに座りながら倒れそうになる。
「勝手に勘違いしてくれて、清々して留学するかと思ったけど。……しねーんだもんお前」
そうだ、あの時。はじめてこの公園で二人に会った時、小五郎は一言も彼女とは言っていなかった。
あんなデマに半年も振り回され、告白までさせられた自分が滑稽であまりにも憐れだ。
早く家に帰ってせっせと穴を掘ろうと思った。
「……私って」
嘘をつかれたわけじゃない。小五郎の巧妙なやり口に怒るわけにもいかず、居たたまれなくなった英理はスクッと立ち上がった。
「まだ行くなよ……」
小五郎は英理の手を強く握った。
「これからは……俺のそばを離れるなよ」
間近に迫る顔。真面目な顔でそう告げる小五郎に英理は降参し、今度こそ膝から崩れ落ちたのだった。
END
長々とした話を読んでいただき、ありがとうございます!
リオ