幼馴染という括りは邪魔でしかない。
小五郎はあるときからそう思うようになっていた。
最初は、まるで擬似兄妹のような英理との関係を、楽しく心地よいと小五郎は感じていた。
しっかりしているように見えて、どこか抜けている危なっかしい英理を、面倒見の良い小五郎は何かと気になって見ていたのが親しくなるきっかけだった。
小五郎が英理への恋心をなんとなく自覚したのは小学生のときだ。
その頃はまだ他愛のないやり取りをしたり、ときには意地の悪いことを言って困らせたりするだけで楽しかったものだ。
そんな小五郎も、中学校に上がるにつれて徐々に焦りを感じるようになる。
英理は小さい頃から頭が良かったが、学年が上がるにつれて人よりも優れた才能をどんどん開花させていった。
なんとなく月並みに部活なりに打ち込む自分が小さく思えることもしばしばあり、小五郎は英理に対して少しずつ臆する気持ちが芽生え始める。
眼鏡の奥に光る整った顔も大人に近づくにつれて目立つようになっていった。
静かに教室で本を読む英理の姿に、どこか近寄りがたささえ感じるようになっていた。
高校に入学して、英理に親友と呼べる友達ができたのを見届けて、すこし距離をとることにした。
といっても気を使ったわけでも身を引いたわけでもなく、単にその場の劣等感と戦うことから逃げただけだ。
英理に見劣りしない男になろうと、気負って部活に勉強に真剣に打ち込んだ。しかし高校に入って二年も経つと自分の能力が相対的にわかってきて、その気持ちも徐々にしぼんでいった。
――優れた能力に対抗しようとするのではなく、真逆の路線を突き詰めて英理の後ろ盾になろう。
そう俺は決めた。
だらしなくて、ちゃらんぽらんで、バカな男になろうと。
どうやらその資質はよく合っていたらしい。
自分でも呆れるほど一途に想い続けていることを知ったら、アイツは怯えた顔をして引くかもしれない。
高三の夏祭りのあの日。
振り切れた俺は、英理への想いを告げるつもりで誘ったのだ。
もう幼馴染ごっこも兄妹ごっこもしたくはなかったからだ。
横に並んで歩いても、もう以前のような近寄りがたさを感じることはなかった。それどころか縮んだ背や細い体の線は小五郎の庇護欲を掻き立てるものになっていた。
そんな英理の肩に手を触れようとしたときだ。留学の話を聞かされたのは。俺がその足枷となっていることを知らされて、それ以上の二の句がつげなくなってしまったのだ。
――アンタみたいな幼馴染、残していったら不安だし。
他意も邪気もない英理の言葉は、小五郎をキツく縛りつけるのだった。