シングルベッド

 

 

 

「……あだっ!」
 真夜中の寝室。潰れた鳴き声に私は目を開けた。ようやく訪れた静けさが心地よく、ウトウト漂っていたところだったのに。
「いってー……」
 上体を起こし見る。床に転がっている、頭を抱えた夫の姿に私は笑う。
「……やだ。また、落ちたの?」
「ベッドがせめーんだよ! なんでわざわざ、シングルなんかに……」
「いいでしょ別に。独り暮らしなんだから、これで充分なのよ」
「ケチくせぇなぁ! 安眠できねえだろ、これじゃ」
「私はあなたと違って寝相がいいから。せいぜい気をつけることね?」
「ったくよぉ……」
 ぶつくさ言いながら、再びベッドに潜り込んでくる。大きな身体が、きつく私を寄せる。落ちないように、密着するために。私はホクホクの上機嫌で、彼の胸に顔をうずめた。
 久しぶりに会えたんだもの。こうして眠るのも悪くないわね……なんて。ベッドをわざわざ買い替えた自分のささやかな工夫に、ふふ、と息を漏らす。鼻元にある胸の薄毛が、ふわりと揺れた。
「くすぐってぇ……っの。なに笑ってんだよ」
「なんでもなーい」
「あのなぁ」
 夫は呆れて言い、私の頭をさらに寄せた。耳元にボソリと落ちる声。
「もっと手軽な方法があるって知らねーのかよ……」
「!」
 見抜かれた思惑に、はたと呼吸を忘れる。血が駆けめぐる。頬から胸へ。胸から脚の付け根へ……。触れたところから、火のつくような熱が蘇ってきて、私はぎゅっと目をつむった。もちろん眠るためにではなく。