なけなしの小遣い、三万円。

 

 

 

 






 いざ、となったところで俺は、ベッドの上で首をかしげた。

「……ねぇ、どうかしたの……?」

 ベッドの上にいる裸の女は準備万端。とろとろ状態で身体をくねらせる。別居中の女房、英理の声はこの上なく甘い響きだった。……はやく頂戴、というおねだりの声色だ。
 どエロい。数時間前の姿からは考えもつかない。

 今夜は特に、このベッドに辿り着くまでに苦戦した。溜まりに溜まった俺への愚痴、主に女癖の悪さへの苦言をしこたま聞いてガス抜きをしてやったのはすべて、この瞬間の為だった。時間をたっぷりかけてほぐしたので、いつもの鬼嫁っぷりは、すっかり鳴りを潜めている。
 やれやれ。夫婦とは面倒なものである。そこらのオネエチャンを口説く困難なら楽しめるが、女房をベッドに誘う苦難には毎度閉口してしまう。

 そう思いながらも俺は、英理へ身体を寄せてキスをしてやる。女房の尻に敷かれた男は大変なのだ。
 早く、とおねだりされたって、待て。こっちだって挿れたいが、まだ自分のそこに丸まったコンドームを当てがったまま。

「……ん、♡」

 舌を受け入れる甘い声。誰にも言えやしないが、生のオンナの嬌声というものを実はこの声しか知らない。挿入までの間、冷めさせない為に誤魔化してやろうとしたのに、長年してきただけあって相性が合うのか、こっちが夢中にさせられちまう。
 甘く柔らかい舌を味わいながらも、右手はずっと装着を試みていた。ラテックスのそれは、うまく先へ進まず皮が不快に突っ張った。焦っているのだろうか。情けない。

 うっかり裏表をミスったのだろうと、ゴミ箱のあたりに放り投げた。毎月月初に娘から支給される小遣い3万円をやりくりして買ったコンドーム。1個無駄になって悲しいが、もういちど寝室のサイドボードをあさった。
 几帳面な女房は、夜の必需品を小物入れに収納している。それは小花のモチーフが描かれた外国製の陶器で、えらい高級そうな代物だ。中身をいそいそと調達するのはいつも俺で、女房がこうして、わざわざお上品に隠すのである。

 めんどくせえ習慣の事なんざ、今はどうでも良い事だ。とにかく挿れちまおう……、短いキスをして離れ、再度装着しようと袋を破いて気づいた。──いつものじゃないって。

 黙ったまま、ピンク色のコンドームを持った手をそのまま英理へ伸ばした。俺からの提案に英理の瞳は意図を探るように揺れる。俺が目で促すと「いいけど……」とちいさな唇は渋々言う。起きあがらせると、長い髪を英理は後ろへ流す。
 固くなっているその前に座らせるとき、この高慢ちきな女の頬はいつも赤らんだ。この顔をみるのが、実は嫌いじゃない。

「あら?」
「やっぱりな」
「あなた、痛い?」
「おかしいと思ったんだ。いくらやっても入らねぇから」
「本当ね。小さいわ……」

 言っておくが、小さいのは俺の立派なムスコの事ではない。コンドームのサイズの事だ。明らかに小さくて、俺のにはキツくて入らなかったのだ。
 じ──、と物言いたげな視線で英理を見ると、気づいた英理はそこからパッと手を離した。焦る英理の顔を見て、俺の口からは悲しい苦笑が漏れた。

 寝室の秘密の小箱に、自分以外の人間が調達した避妊具が置いてあるという事実。悲しいかな俺の優秀な頭脳は間接的に、その事実の存在を証明する証拠を見抜いた。
 険しい目つきで英理をみると、目を丸くする。

「なによ……?」
「お前、こんな粗末な男で満足してんのかよ?」

 低俗な煽り文句だと我ながら思った。頭の中で、知らない若造に寄り添う女房の姿が、頭にハッキリ浮かんでいた。
 いつかこんな事になるんじゃないかと、心のどこかで思っていた。うぶで純粋な英理の浮気なんて、昔なら疑念すら抱かなかっただろうに。

 口うるさいのが玉に傷だが、客観的に見れば、魅力的といえなくもない女房と、十年も別居生活を送っている。夫婦でベッドを共にするのはそう頻繁ではないし、今では高名な弁護士となった英理の普段の生活など俺は知るよしもない。

「それ、どういう意味か聞いてもよくて?」
「浮気だ何だと騒いだくせに。お前こそ、んな小さいモンの持ち主と、よろしくヤってるんじゃねーかって事だよ……」
「下品ね……。私を疑ってるの?」
「鈍くせえ女だ」

 女にこんな事を言う日が来るとは。浮気はバレずにしろなんて、俺は死んでも言うもんか。俺の言葉に、英理にしては珍しく傷ついた表情をはっきりと表に出した。なんでお前にそんな顔ができるんだと、俺はますます苛立った。数時間前、俺の女癖の悪さの文句を散々垂れまくったくせに、自分はどこぞの粗末男と浮気だと?「女にうつつを抜かしてバカじゃないの?」……今後口にしたら、ただじゃおかない。

「ばかね。私が間違えたのよ」 

 何を……。俺は小物入れの小花の絵を視線でなぞりながら、心の中だけで相づちをうつ。

「これって種類がたくさんあるのよね。無くなってたから買ってきたんだけど……どうやら間違えちゃったみたい。どう、安心した?」

 その言葉に顔を上げると、今度は英理が、俺を睨んでいた。

「私が浮気したとでも?」
「……何だよ」

 なんだ、そんな事か……。肩の力がへなっと抜け、自分の早とちりな推理に納得したあと、急激な羞恥心に襲われる。旦那としては当然の怒りだが、自分の恥部を見られたような気がする。そうか、単に無くなってたから買ってきたのか。ずいぶん気が利く……

「……ってこれ、お前が買ってきたのか!?」
「そうよ?」

 まさかの事を平然と言う英理に、俺はまた頭にカッと血が上った。
「こんなモン女が買うな!」
「だって二人で使うものでしょう? 気を回したのに何怒ってるのよ」
「トイレットペーパーじゃねぇんだぞ!?」
「知ってるわよ。何なの」
「だから、そりゃ……!」
「別に恥ずかしい事じゃないでしょ? 変な人」
「……あーもう……」

 俺は頭をがしがしとかく。感情が忙しい俺とは対照的に、平然としている女房。コイツは自分が周囲にどんな目で見られているかなんて、まるでお構いなしだ。

「複雑ね~。私、こんな事であなたに浮気を疑われるとは思わなかった」
「笑ってんじゃねーよ……。まさか、服を脱ぐのも嫌がってたお前が、こんなモンを自分で買うとは思わねえだろ!」
「ご愁傷様。もう若くないの」
「ハァ~……」

 そういう問題ではないと、どこから説明したらいいのやら。いや、これまで何度説明しただろうか。正直に心の内を言ったって、英理は俺の剥きだしの感情を肴に悦に浸るだけ。
 男心など理解できない。俺だって何度言っても英理には伝わらないと諦めている。俺が元凶だ。俺が昔、過度に守りすぎてしまったが為に、この女には警戒心というものが無い。

「ため息ついて、何なの」
「俺がこんな粗末だって噂がたっちまうじゃねーか……」
「男の人ってそんな事が気になるの? 理解できないわ。名探偵さんと私は簡単には結びつかないから安心したら?」
「んなわけあるか。夫婦だぞ」
「怒ってるの? 私はただ、」
「……嫌なんだよ。お前がほかの人間に性的な目で見られんのがよ」

 どうせ分からねぇと知りつつ、分からせておかないと気が済まない。この感情は何なのか。知りたくもない。

「私が? まさか……女の子じゃあるまいし。あなたは女性が避妊具を買っているところを見たら、誰でもいかがわしい目で見るというわけ?」
 見るだろ、そりゃ。男は。
「とにかく! これは俺が買うからお前は気にしなくていーの!」
「でも、」

 うるせえ。まだ納得しない英理の唇を強引にキスで塞ぐ。口論で固くなった唇を舌をねじ込んで割ってやると、あったかい息が漏れる。熱い舌を絡めると力が抜け、英理は煽るように下唇を噛んできた。……あーくそ。別居中でこんなに色気を振りまく女房を野放しにしておく、こっちの身にもなってくれ。

 心のもやを情熱に変えて燃やし、息も満足にさせないような激しいキスに発展させながら、俺の手は本能的に英理の顔や頭をなで回していた。まったく。こんな感情ダダ漏れのキスをして、俺は一体何なんだ。クソ。

「でも、」という英理の反論は、今夜はどうするの? という問いかけだったに違いない。英理のフォローは余計ではあるが流石だ。俺は今日、買ってくるのを思いっきり忘れていた。
 名残惜しいが唇を離して、俺は近くのコンビニと、財布の残金を思い浮かべながら言った。

「いい子にして待ってろ。いびきかいて寝てんなよ?」
「……あなたじゃないのよ」

 軽口を叩いて頭をポンポンし、ベッドを降りようとしたところで、英理の手が引き留めた。

「……待って」
「何だ?」
「あのね……。疑われたのは、ハッキリ言って腹が立ったわ。けどね……あなたの気持ちが、理解できないわけじゃないの。私だってあなたがコレをお財布に入れて肌身離さず持ち歩いてたら、同じ事を疑うはずだわ」
「フォローありがとよ」
「だからその……ね。これ、もう無くても、いいんじゃないかしら……?」

 英理の唐突な発言に、俺は豆鉄砲を食らった。さっきの浮気疑惑と、もう無くてもいい、の因果関係が直結せず、俺は疑問符を浮かべる。なくてもいい? ……それはつまり? 俺は英理がどこまで本気なのか、気まぐれなのか、判断が付かない。

「……何がだ?」
「わからない? もう買いに行かなくてもいいって、言ってるのよ」
「行かねえとまずいだろ」
「いいって言ってるでしょ?」
「無いと困るだろが」
「あなたは困る? 私はできても、構わないわ」
「デキるって?」
「あなた、わざととぼけて!」

 英理は、追求の意図に気づいて、呆れ顔をする。俺が言わせたくて、意地の悪いとぼけ方をした。本気の度合いを知りたかったのもある。

「あなたは、いや?」

 気の強い女房の、期待と不安が混じったような表情。見入ると英理は照れてプイッと目をそらす。
 ……何なんだ。何でコイツは、俺のことがこんなに好きなんだ……。家出したまま帰ってきやしないのに、どうして俺の子どもが欲しいだなんて、思えるんだ。

 ──あ。そういう事……?
 俺は、英理の分かりにくい表現の可能性に気づき同時に、照れ顔の意味を理解して、胸のどこかがジリっと灼けた。
 家に帰っても構わない。と、言外に英理は言っているのと同じ事なのだ。

 どんな心境の変化か知らないが。こんな事、いい加減な気持ちで言う訳がない。予定外かもしれないが、そもそも夫婦であるのだし。それに。率直な俺の気持ちは……できてもいい、より、欲しいと思った。子ども。
 いい歳した英理の、相変わらずのデレ方に、気づかされたこっちの方が恥ずかしい。この家出女房に言うことはひとつだけだ。だめと聞かれて、そんなの、だめなわけがねえって事を。

「デキてもいい、だぁ? 舐めてんのか。俺を誰だと思ってんだ。……絶対作るぞ」
「! もう。ばか……」

 英理の頬が、かあっと赤くなる。ムシャクシャするのは、俺も同じ顔色をしているからだ。やはりこの顔を見るのが嫌いじゃない。いや、世界で一番、……。



 あふれ出そうな気持ちを掬うように愛液に触れると、英理は俺の首に手を回して、ベッドに倒れ込んだ。「濡れてる」と呟くと、「はやく……」とかわいこぶったおねだりをする。
 普段の取り澄ましている姿を思い浮かべると、ベッドに誘うのが困難で参るだの、思った自分が嘆かわしい。意地っ張りで、素直に甘えられないところが気になって、いまだに目で追ってしまうくせに。

「っ……♡」

 長い足を広げさせ、存分に濡れたそこへ、先端を飲み込ませていった。指で触ると柔らかいのに、挿れると締め付けてくる。ゆっくり押し広げるように、腰を進めた。
 あったかい粘膜を直に感じ、首筋に顔を押しつけて匂いをかぐ。濃く、甘い匂い。中が蠢いたり吸いついたりする感触を味わった。
 深い部分で結合し、息が乱れているので聞いてやった。

「苦しいか?」
「だいじょうぶよ。もっと……、きても」

 そう言って英理は誘うように腰を浮かせた。腕を首に回し、良いところに当たるよう調整して、準備をしている。そんな健気な事に気づいた俺は満たしてやりたくなる。気持ちよさで頭をいっぱいにしてやれば、しばらく機嫌も良くなるだろうし。誘われるまま、さらに奥に押し込んだ。

「は、ぅんっ……♡」
「奥……、どうだ」
「……んっ。きもちいい……、とても……」
 本当は聞かなくても解った。内壁の襞の感覚までわかるくらい、中がぎゅうっと掴んできていた。英理の持ち上がった顎が震え、荒い息を整えるように浅い呼吸を繰り返すのを一番奥で待った。何度も快楽を共有して覚えたやり方。幸福とはこんな事なんだと、唐突に実感する。

「忘れてねぇ。ぴったりだな……お前のココ、」
「ン……」
「えり、」

 首筋にキスを繰り返し、そこへちゅう、と吸いついたら腰が震えた。痕がつくほど思い切り吸うと、中がきゅうと締まった。奥を揺するような動きを与えると、甘い矯声があふれる。

「あっ……、あぁっ、あっ、……♡」

 気持ちよさそうな反応に満足し、擦るよりも押し込む動きに重点をあてた。俺で気持ちよくなれ。そう思いながら。

「……あなた……っ、あっ、ぁっ♡」

 腕も膣内も必死にしがみついてくる。何とも素直なもんだ。この快楽に喘ぐ唇は、普段は俺の事なんて、ダメ亭主と罵りまくっている。──けどな、俺が何も知らないと思うか? 

 お前が裏で蘭に指示して、俺の財布を握ってる事。遊びを控えるよう小遣いの額を調整してる事。隠したいようだから気づかない振りをしてやっているが、全部気づいている。お前が、置いていった亭主のことが気になって気になって、好きでたまらないって事もだ。

 腰を使って気持ちいい位置をしつこく擦り続けると、英理は汗だくになり、その声は乱れまくった。こんな声を聞いていると、頭がヘンになる。

「──……っ!♡」

 英理は声を殺してイった。顔が熱くて、ぎゅうぎゅう締まってうねっている。今日は直に感覚が伝わるから、気持ちよさでこっちも飛びそうになる。密着した心臓の鼓動がバクバクしていて、動きを少し緩めてやった。

「……イったばっかだしな」
「……っ、ん……はっ、は、ぁ……♡」
「息、ちゃんと吸えよ」

 英理は首をわずかに使って答えた。短時間に燃えるなら、このまま突きまくって乱れさせてやるのも悦ぶだろう。だが今夜は長く楽しんで、奥にたっぷりと注いで欲しいとのご要望だ。
 ぬるりと抜くと、自分が入っていた箇所から白濁した愛液がこぼれてくる。少しだけ自分のも混じっているかもしれない。それを指に絡めて、外側の敏感なところを撫でてやる。

「っ、や、……それ……」
「イったあと、気持ちいいだろ、ココ」
「ンん……♡」

 肯定の声がとろけている。この女のどこが気持ちいいとか、どうすれば悦ぶのかとか、今日のアレは本当、勘違いで良かった。自分以外の人間が知っていたらと思うと……。俺は、コンドームを買うだけのことでカッとなった自分の感情がどうなるか底知れない。
 上半身はくたりとして、下半身だけが、ぴくん、ぴくん、と震えて指の動きに反応を返してくる。大波が去って小さい快感の波に揺られた、とろけた目を見つめる。

「……ぁ、ぁ、ぁん」
「気持ちいいか」
「…………ん♡」
「イイって言えねぇもんかね」
「……言わなくたって、みれば……わかるでしょ……?」
「言わせてぇだけだよ」
「ん……。……いい♡」
「ヨシヨシ」

 俺は満足してもう一度挿入しようと、腰を浮かせ、英理の太腿をつかんで引き寄せる。

「ねぇ……あなた。蘭はびっくりするかしらね。つぎは……男の子も、いいわね」
「そうだなぁー……。お前似なら、色んな意味で、きっと人生楽しいだろう」
「どういう意味よ。あなたに似たら苦労するって?」 
「そりゃあするさ」

「…………。いいの?」

 それは、ちいさな声だった。俺は言葉もなく、準備をやめ、英理を見下ろしたまま目を見張った。快楽に飲まれて感情が揺れている瞳。らしくないことを、まるで本音みたいに言うので返答に窮した。

「……あなた、本当にいいの? また、私なんかと……」

 震える声が俺の耳に届き、ほとばしる炎のような感情が胸を駆け抜けていく。これは……これが、鬼嫁にはなりきれない英理の本質であるのだった。私なんかと心では思い、それでも厳しく俺をコントロールする。だから俺は、鬼嫁に従う可哀想な亭主の顔をして、小遣いの範囲内でたのしく遊び騒ぎ、スーパーで買う500mlの発泡酒で文句も言わない。すべて女房の言いなりだ。なぜだか知りたいか?

「お前を愛してる。英理」
 
 受け止めた英理の大きな目にうるっと涙が溜まってきて、俺は気恥ずかしくて、その目を見ていられなかった。そんな俺の愛が喉から手が出るほど欲しそうな顔をして……聞くなよ。今更。知ってるくせに。こっ恥ずかしいったらない。

「ったく……。これだけしてやってるのに、まだ言葉で欲しがるなんて我が儘なんだよ……」
「……してやってる? わるかったわね。ワガママで」
「いーから、余計なこと考えずに俺に集中してろ」
「してるわよ。ぁ……、ん、ん♡」

 再び腰を奥に押し込んだ。泣いてるみたいにトロトロに湿っているそこは温かい。よしよしと宥めるように、ねっとりと奥を擦ると、英理は声を殺して身悶えた。

「……っ、っ!♡」
「いいんだぜ、いくらイったって」
「……も、う!」
「また、奥、してやるから。こうやって、何度でもな」

 両膝を広げて持ったまま、ぐりぐり、と奥をこねくり回すと、英理は乱れ声を上げ、シーツの上で快楽にもがく。俺を締めつけ、腰を何度も前後に動かすと、ぐちゅぐちゅっ♡ と音を立てまくっている。徐々に英理の顎が天を向く。首から顔までがピンク色。汗が光り、背中が弓なりに浮いて、快感の坂を一気に昇っていく。

 絶頂が近い。このままの姿勢でし続けてやったほうが、すぐにそこへ辿り着ける事を知っている。そう知っていて……、俺は、力がめいっぱい入っている英理の首筋に手を添えた。身体を倒して密着する姿勢に変え、熱い息の漏れる唇を食べ、舌を滅茶苦茶に絡ませた。
 できるだけ長く、2人で溶け合っていたかった。

 そのままゆっくりと奥へ押し込む。何度も。そのうち、ちゅうちゅう吸われているのが舌なのか、先っぽなのか区別が付かなくなっていた。
 気持ちが良すぎて頭がどうにかなりそうで「あぁ……!」と俺の口からも知らずに声が漏れ出てきていた。出る。この奥に出したい。そんな身体の奥からきつく絞り出されるような堪えようのない射精欲。

「英理、……っ」

 名前は、俺の荒い息と共に吐き出される。その奥にすべてをそそぎ込んでいく射精の動きに、英理は嬉しそうにきゅんきゅん反応をする。

「──…………っ♡」

 英理もすべてを解放し尽くした。眉間にしわを寄せて、快楽に浸る生々しい裸体を強く抱きしめる。
 全身の力が抜け、中の筋肉だけが収縮して、出した精液を飲み干すように動く。膣内がぴくぴくとヒクつくたび、英理の口から出る全力疾走あとの、ご褒美を味わう声。

「ぁ……、……♡」

 これは絶対デキるんじゃねーかと、何故か確信めいて俺は思った。こんな最高のセックスで、デキないなんてウソだろ、という根拠のない自信である。