がぶ飲みした、ワインのせいかもしれない。
耳元で聞いた、夫の声のせいかもしれない。
私は指が止まらなかった。
「んぁっ……はァん…」
自室のソファの上で、快感を貪っていた。
独りきりで。自らの指で。
今夜は夫が来るはずだったのだ。
それを、急にドタキャンされてしまった。
私は用意していたワインを独りで飲み干し、すっかり酔っぱらうと。
気が大きくなり、大胆な気持ちになった。
『すぐ埋め合わせるからよ。いい子で待ってろよ?』
電話口に聞こえた、夫の甘い声を思い出しながら。
宙ぶらりんにさせられた昂ぶった身体を、慰めてあげていた。
「あっ……んんっ」
指で、膨れた肉芽をムニムニと摘む。
夫の手を思い浮かべながら、私は動きを強くした。
「…あっ……あなたぁっ……」
つい口に出てしまう、慣れた呼び名。
静かな部屋に、自分の淫らな声が響いた。
私は恥ずかしくて堪らなくなり、
それを誤魔化そうとして、動きをいっそう激しくしていった。
太腿がビクッと、一度跳ねる。
「はぁっ……」
軽く達した快感が、脳に甘く広がる。
私はソファに頭を預け、乱れた呼吸を整えつつ、ゆっくりと目を閉じた。
「邪魔するぞー」
「ひっ……」
すると突然リビングの扉が開き、草臥れた男が入ってきた。
私はサーッと血の気が引いていく。
「……なにやってんだ。んな格好で」
「あ、ああああなたこそ! なんで!!」
私は、スリップ姿で。
ソファに預けていた身を慌てて起こした。
「朝までかかると思ってた用事が済んだからさ。もうこんな時間だし、お前寝てるかなーと、コッソリ来たんだがよ」
「ふ、ふーん!」
見られた?……見られてない?
私は冷たい汗を垂らした。
彼の顔色を伺うと、からかうような色は見あたらない。
私はちょっとホッとして、冷静な顔を急いで作った。
「独りで、お楽しみだったようで」
小五郎はニヤリと笑った。
心臓がばくん! と飛び出す。
私は手振りを大きくし、彼のスーツを掴んで、身体を前後に揺さぶった。
「ち、違うの! 違うのよ!! なんで勝手に入ってくるのよっ! 私にだってプライバシーってものが、あるんですからねっ!!」
「なにアワアワしてんだ……なにが違う? 別にオトナなんだから、いーじゃねーか。楽しんでたんだろ?」
「もうっ! デリカシーってものがないの!!!?」
さらに小五郎を揺さぶりながら、私は声を大にする。
恥ずかしさで、頭がどうにかなりそうだ。
「別に独りで盛り上がろうが、怒ってねぇって! すっぽかされて、ムシャクシャしてたんだろ。悪かったよ」
「慰めないでよ……死にたくなるわ」
「落ち込むなよ。俺もよくやるし、気にするな」
「そ、そう……でしょうね。あなたは、するでしょうけど」
突然の夫の自慰の告白に、少し動揺してしまう。
私は何が何だか、わからなくなった。
小五郎は部屋を見渡して、鼻をクンと鳴らした。
「まだ、ニオイが残ってるな」
「もうっ…!バカ!!」
ニオイ、なんて言われて……
なんだか頭の中が、ぐちゃぐちゃしてくる。
それを吹き飛ばしたくて、私は彼のスーツの襟に手をかけ、
グイっと思い切り引き寄せ、キスをした。
「む」
こうなったらもう。
それ以上のことで誤魔化して、忘れてもらう。
私は慣れないやり方で、たどたどしく舌を侵入させた。彼は一瞬身を引いたが、徐々に前のめりになり、ヌルっと舌を絡めてくる。
小五郎の空いた手が、私の尻を掴む。
そのままスルスルと、私の脚の付け根に伸びてきた。
そこはすでに、グッショリと濡れているはずだ。
私はそれを誤魔化すように、膝で彼の股間を刺激する。
「……さては、いい子で待てなかったんだな」
唇を離すと、低く濡れた声が耳元で聞こえた。
「……なぁ、してたんだろ?」
「いちいち、言わないで……」
「スゲェもん、ココ」
「……分かってるから」
小五郎の指が、ゆっくりナカに入ってくる。私は抵抗なく、それをぬっぽりと飲み込んだ。
顔から火が出そうだった。
「やけに素直じゃん。フーン。お堅いお前がねぇ……」
小五郎のちょっと意外そうな声。
私は驚いて、顔を上げて聞いた。
「……あなた」
「ン?」
「私はなにを楽しんでたって?」
「ソレ」
小五郎は、空っぽのワインの瓶を指差して、ニヤニヤと笑っていた。
「なっ……!!」
小五郎が指差した空き瓶を見て、私は卒倒しそうになった。
彼との会話の食い違いを理解したが、もう後の祭りで、取り返しがつかなかった。
「色んな意味で、楽しんでたんだなぁ。すっかり大人になっちまってよぉ……幼馴染としては、ちょっと寂しいぜ」
「ばか!!」
夫は、ニヤニヤしている。
私が恥ずかしさの涙を溜めた目で言うと、小五郎はいやらしく唇を歪めた。
膣内に入れられたままの指が、ズボズボと動く。
「あっ……あっ……やだ」
私の弱いところを、外さず焦らさず、確実に狙ってくる。
軽くイかせるつもりだ。
わかっていても、体中に震えが走って止まらくなる。やっぱり違うのだ。自分の指ではこうはいかない。
倒れ込まないように腕に捕まった手の力が、ずるりと抜けていく。
涙が目尻からこぼれた。
「お前、ちょっとお仕置きが必要かもな?」
赤くなった耳に、囁かれる低い声。
「あ、ああああっ……!」
その声だけで、私はいとも簡単に達してしまう。
強く首を反らせると、ソコにちゅううっと強く吸い付かれた。
私は咎める余裕もない。明日にはきっと痕になるだろう。
小五郎は、余韻も残さず指を引き抜くと。力の抜けた私を軽々と抱えて、寝室へ向かった。
「さ、見せてみろよ」
私をベッドに横たえた。
小五郎はジャケッドを脱ぎ、ネクタイを緩めつつ、私を見下ろしている。
「は?」
「どうやって弄るのか、見てみてぇな。優等生のオナニーなんて、そそるぜ」
「!」
小五郎のからかうような口調。
その表情はイキイキとして楽しそうだ。私は青くなる。
「ホラ、手伝ってやろうか?」
小五郎は服を脱ぐと、ベッドに寝そべる私を、背後から抱きかかえた。
「ココだろ?」
右手を取られて、身体の中心へと導かれる。
「いやよ……いや」
私の人差し指を、膨れた肉芽にあてがった。
「ここ、コスられんの大好きだもんな?」
小五郎の親指と、私の人差し指。
それでキュッと摘まれ、しごかれる。
「んっ……んん!」
「なぁ、こういう時ってどういう想像すんの? やっぱ、誰かを思い浮かべるわけ?」
小五郎は片手で私の手を操りつつ、空いた手で乳房を柔らかく揉みしだいていく。
下の動きと連動するように、指で乳首を摘まれて、私は大きく息を吐いた。
「はぁぁ…ん……」
人差し指に触れている、熱いかたまり。それがビンビンに膨れているのがわかった。さらに、滴る液体で指を湿らせ、こねくり回される。
「言えよ。なにを想像した?」
耳にかかる、熱い息。
私は息が上がり、内腿の筋肉にだんだんと力がこもる。
腿を擦れ合わせると、そこは汗だか愛液だかわからないもので濡れていて、ヌルっと湿っていた。
身体が、もっと深い快感を求めている。
別の刺激が欲しくて欲しくてたまらないと、子宮が泣いていた。
ぬぷぷっ
私の指が、滑り込むように入ってくる。
もう彼に導かれたというより、自分がそうしたのかもしれなかった。
でも違う。欲しいのはこれじゃない……
私は横に首を振る。
「なぁ。若い男に犯される妄想とか?」
彼は私の手の甲を掴み、ぐっと深くに押し入れてくる。ザラザラした膣内が、ぷっくりと膨れている。
イイところに指先で触れようとしても、ほとんど力が入らなかった。あまりのもどかしさに、私はたまらず口を開く。
「……ごめんなさい」
私は死んでも言いたくなかった。
小五郎を想像しながら、自分を慰めていたなんて。
「ほー……」
彼は、乳首をコリコリッと摘むスピードを早めてくる。私はそれだけで、身体を反らして軽くイかされてしまう。
「……いいけどよ、別に。お前も好きだね」
私の呼吸が一段と深くなり。彼の体温が、身体から離れた。
ベッドがぎしりと軋む。
私はくったりとした身体を、仰向けにした。
小五郎は立ち上がり、スーツからタバコを取り出した。私に背を向け、ベッドの縁に腰掛けて火をつける。
ナイトテーブルに仕舞われた灰皿を取り出して、ゆっくりと煙を吐いた。
前屈みの、たくましい彼の背中。部屋の薄い明かりの中、筋肉の凸凹が目立っていて、とても色気を帯びている。
私は火照った身体の情熱が消えなくて。
すがりつくような気持ちで、その背中に指を伸ばした。
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば……」
「あんだよ」
いつもどおりの不機嫌そうな声。煙草の香りは、いつもこの声とセットになって、私に届く気がする。
「……あなたで我慢してあげてもいいのよ?」
私なりの精一杯のおねだりだった。けれど彼は、不満そうに頭を落とす。
「あーあ……サービス精神ってものが、ねぇのか。お前には」
「サービス?」
「萎えた。コレ吸い終わったら、帰るぜ」
小五郎は吸いさしのタバコを灰皿に置く。
タバコの火がチリチリと燃える音が、微かに聞こえた。
***
この女はアホなのか。
「……怒ったの?」
俺は背を向けてタバコを吸う。
英理はおずおずと頼りない手つきで、背中に触れてきた。
鈍感なのか無神経なのか。
他の男を想像しながら、オナニーしてたなんて宣言されて。おまけに、お前で我慢してやる、なんて言われちゃ……そら男は怒るだろ。というより、傷ついた。
それがたとえ嘘だとしてもだ。
「フー……」
ゆっくりと細い煙をはく。
コレがお前の制限時間だ。そう見せつけるような、長い息。
「あなただって、するでしょ?」
「まァな」
「若いアイドルとかキレイなお姉さんとか、空想するんでしょ?」
「かもな」
心のなかで、溜息をつく。
俺は意外と一途なんだぜ? 頭の中を、コイツに見せてやりたいくらいだ。
この手に抱いた温かさと、締めつけてくる穴の快感。リアルに思い出せるのは、たった一人の女だけだ。
そんなこと、一々言わなきゃわからないもんかね。
お前も、俺だけを見てればいい。
……んなこと。いい歳してどの口で言えと?
「もしかして、拗ねてるの?」
「……お前、俺以外には恥かくから、やめとけよ。妄想すんのはいいけどよ」
「は、恥?」
「声でけぇし、マグロだし、下手クソだろ。俺以外にゃ、通用しねぇからな」
「!!」
ちら、と振り返って英理を見ると、枕に顔を突っ伏していた。肩をプルプルと震わせて、耳が真っ赤になっている。いい気味だ。
……俺もバカだね。こんな女からかって遊んでないで、とっとと挿れてしまいたいのに。英理のついた嘘に、ついカチンときてしまった。
今夜、俺は見てしまったのだ。
自制心が服着て歩いているようなこの女が。リビングのソファでみだらな姿を晒して、快感を貪っている姿を。もちろん、よがり声も、俺を呼ぶ声も、ちゃんと聞いている。
さすがに今出ていったら、かわいそうだよなぁ……そう思った俺は、とことん優しい。褒めてほしいくらいだ。
あの時はなんて可愛いヤツだと思ったのに、すぐこうやって本音を隠す。
くだらない意地をはる、俺の妻。
「あなたには……通用するの?」
英理は、枕に埋もれた顔を出して、恨めしそうに言った。
きっと身体が疼いて堪えるんだろう。この女にしては、素直な応酬だなと思う。
「ヤリ方しだいじゃねぇか?」
英理は、俺の手元のタバコを薄目で見て言った。
「今夜は、ずいぶん根元まで吸うのね」
「……ケチなもんで」
小賢しい女。そういうところは、やっぱり目ざとい。
「居たければ、もう少し居ればいいじゃない」
「あのな。もちっと、可愛く誘えねぇもんかね」
いや、まあ、本音としてはこれでいいんだが。男の誘い方なんて巧みになられたら、コッチはたまったもんじゃない。
タバコを灰皿に押し付けて消し、向き直る。英理は濡れまくりのくせに、片眉を持ち上げて睨んできた。
俺はヤレヤレ、と肩をすくめる。
俺たちにとっては、ココまでが長い前戯みたいなものなのだ。
「んじゃ、働いてもらおうかね」
俺はベッドに寝転がり、英理の隣で仰向けになった。不満そうに英理は口を尖らせる。
「……マグロだって言ったくせに」
「悔しかったら、自分で腰振って見せろよ。年下男だと思って、リードしてみればいい。せいぜい頑張りな」
ぶるん、と男根を小さく震わせて誘ってやる。
英理はソレを見て唇を噛んだ。物欲しげな表情だ。
嫌なのか、ムキになっているのか。思い詰めたように、ジリジリと近寄ってくる。
「……やってやるわよ」
英理は俺の身体に手をついて、素直に跨った。
まったく、負けず嫌いだよなぁと、俺は心の中で笑う。
秘所の入り口に先っぽを当てて、英理はゴクリと唾を飲み込んだ。右手で握りながら、ゆっくりゆっくり下りてくる。
「う……」
そこはジットリと湿っている。じわじわと肉を開いていく感覚に、英理は顔を歪めていた。
あーもどかしい。
下から思い切り突き上げてやりたい衝動を押さえて、俺は腰に手を添えた。
根元まで飲み込んで座り込み、英理は小さく震えながら、熱い息を吐く。
「ホラ早く、いやらしく腰振ってみな」
あったかく濡れた膣内に、優しく包まれる感覚。
ああ、コレコレ。
この感じが、本物の愛しさってやつだ。俺は英理の尻と太腿を何度も撫でた。
英理は目を瞑ったまま、俺の手を握る。
やがて、前後に腰を揺すり始めた。
「ん……あっ、あぁっ……あっ」
いやらしい水音を耳にしながら見上げる。気持ちよさそうにヨガる妻の顔。汗を滲ませて顔を真っ赤にしながら、眉を寄せ快感に浸っている。首元には先程付けた赤い痕が浮き上がっていた。
いい眺めだ。もっとやれ。
腰を少し持ち上げて押し込んでやると、英理は身をよじってさらに乱れた声を上げた。
「ひゃっ……ああああ!」
根元をグリグリとねじ込むと、英理の腰の動きが止まった。ふらっと前かがみに倒れそうになるのを、肘から下を俺の胸に置いて、ぐっと堪えている。
「おら、サボんなよ。動け動け」
「待って、待ってぇ……」
ペニスに力を入れて小さくヒクヒク動かすと、とろけるような喘ぎが英理の口から漏れた。
……すげえな、こりゃ。
感じやすくなるように身体を躾けてきたから、英理は快感に鋭敏だ。だが今日はすごい。ナカがドロドロに溶けて、敏感になりまくっている。
両手で腰を固定して、膣内を舐めるように愛撫すると、英理は心地よさそうにプルプルと瞼を震わせた。
「ふぁ……ぁ、イイ」
珍しく、素直で可愛いことを言う。
俺は不機嫌なことも吹っ飛び、すっかり幸せな気分で英理の頭を撫でた。
ペニスの快感を得るよりも、これを見る方がずっと満足感があるのだ。
俺の深い愛情を少しは感じてほしい。
そのまま手を頭の後ろに入れて、唇を求めた。舌を柔らかく絡ませて、口腔内も同じように愛撫していく。
同時に、腰を小さく回しながら膣内を味わうと、ちゅうと弱々しく舌に吸い付いてきた。
肩に置かれた英理の手は、ずっと細かく震えたままだ。
「んんぅ……」
舌を絡ませながら抱いて、上体を起こす。英理を腿の上に座らせた。
足の付根はビショビショで、ヌルッとよく滑って抜けてしまいそうなくらいだ。
腰の動きを止めると、英理は不満そうにフルフルと小さく首を振る。
ったく、オバサンのくせに。
なんでこんなに……チクショウ。
俺はベッドの背面に身体を預け、両手で英理の腰を抱いた。
ねっとりと唇を離すと、英理は俺の頭にしがみついてくる。
耳にキスするように囁いてやった。
「マグロでないとこ、見せるんだろ? もっと激しく求めてみな」
「わかってるのよ……見て、楽しんでるんでしょ。悪趣味よ」
荒い呼吸が、俺の耳にかかる。プレイとは裏腹に、声色は大人の色気ムンムンだ。こんなふうに年下男に跨ったら、ひとたまりもねぇだろうなと、想像して俺は笑う。
お前は俺じゃなきゃ物足りねぇよ、絶対。
「絞り取ってくれよ。お姉さん?」
「バカ……」
英理は足をキュッと俺の腰に巻きつけてくる。もうやる気がないな。というより、動けねぇのかもしれないが。
そのしがみつく様が愛しくて、もうこの辺で許してやるかと俺は尻を掴み、より深い挿入を求めた。下から上にすくい上げるように、揺さぶっていく。
「ひっ……ぁ、ああ」
英理は俺に抱かれたまま、首を反らせた。晒された赤い首にキスをすると、汗と涙で湿っている。じゅる、と音を立てて啜った。
「あっ…あなたぁ……」
こんな時でなきゃ、抱きしめてもくれなければ、泣き顔も見せてくれない。愛嬌のかけらもないクールな女のくせに。
俺の髪を掴んであえぐ女は、普段の澄ました顔をメチャクチャにされ、すがりついて泣いている。
俺はもっともっと泣かせたくなって、腰の動きに集中していく。
優しく包まれていたペニスが、だんだんキツく締め付けられた。
「く、……」
亀頭がチロチロと舐めまわされている感覚がして、俺は小さく呻く。子宮の入り口が降りてきて、キュッと包み込まれる。なんともいえない幸福感。
ああ、もう、好きだ。
気持ちよすぎてたまらない。
唇を合わせてこじ開け、思いきり吸い上げる。
英理は俺の口の中で低く喘ぎながら、夢中になっていた。上でも下でも深くつながりながら、汁まみれでドロドロだ。
亀頭の刺激が前立腺に伝わって、脳がビリビリと痺れて。頂点が見えてきた。
射精の達成感に向かって、走っていく。
塞いだ唇に愛の言葉を紡いで、快感の頂点を味わい尽くした。
指と指を絡ませあったまま、英理は俺の胸の上で寝息を立てていた。
涙でぐしゃぐしゃになっている顔を撫でる。力の抜けた口元は、昔とちっとも変わらない。
どうせ明日目覚めたらこの口は、いつものように俺を責めるだろう。ねちっこいだのサドだの変態だの言って、喧嘩別れをするところまで予想できる。
俺はすっかり満足して、クタクタの妻を抱いたまま、目を閉じた。
おわり