真夜中の訪問者







 扉を開けるとそこには仏頂面で立っている男の姿があった。
 「いらっしゃい」
 なるほど。どんな顔して来るのかと思ったら、ね。
 「おう」
 不機嫌そうなに男は部屋に上がりこむ。
 「ね、悪いんだけど。明日朝早いから、用件は手短にお願いね」

 「いま家に居んだろ?今から行くから起きて待っとけ」

 夜更けにあんな電話寄越すから何事かと思ったら、まるで普段と変わらない様子。
 一息ついて玄関を上がると不意に後ろから体ごと衝撃を受けた。
 「・・・っちょ、あぶないじゃない!」
 いきなり後ろから抱きすくめられる形になり、耳に彼のくちびるが当てられる。
 熱い唇が耳元でささやいた。

 「なんならずっと起きてりゃいい。オレの用事はそんなに早く済まねぇから」
 
 「・・・酔ってるの?」
 やめてちょうだい、と声には出したものの、思うほど強く響かなかった。なんとか男の体を引き離そうとするが、更に強く抱き締められてしまう。
 それは呼吸が苦しくなるほどで、女は男の腕の中で身じろぎした。
 「少し、な」
 女がもらしたのはため息か、或いは熱い吐息か。
 「いやよ…、ちょっとは人の迷惑も考えなさいよ」
 そう言いながらも体の芯が熱くなるのを女は感じていた。
 
 男の無骨な手が慣れた手つきで女の乳房へ下りていく。
 剥き出しになっている首筋に熱い吐息を感じて、思わず男の太ももに爪を立てた。
 「なるほど。迷惑ねぇ・・・」
 敏感な胸の頂に触れピクリと体が反応したのを見、男は手を解いて女を解放した。
 行き場を失った体は玄関先で前のめりになってしまう。女は振り返って男を見上げた。

 「・・・お前それ、睨んでるつもりか?」

 卑怯だ、と思う。これじゃまるで私が誘っているみたいじゃない。
 女は座り込んでいる体勢のまま、男のネクタイに手を伸ばし、自分へと引寄せた。
 「おっ・・・と」
 たぐり寄せられるまま、女へと近づいていく。
 吐息がかかりそうな距離で女は冷静な顔をして言った。
 「本当にね、明日早いのよ」


 「耳、赤くなってる」
 「う、うるさいわね!」


今日は、押したり引いたりの駆引きはしない。
午前2時、そんなことをしている時間の余裕はなかった。 

 

 

おわり