「……あなた、自分が何をしてるか分かってるの?」
「……分かってるさ」
「っなら、今すぐにこの体をどけなさい!」
「……」
2人の時間
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黒いスーツ姿の女が、床に組み敷かれている。
彼女の手は彼の手によって、絡みつくように優しく握られていた。
「やめてったら……」
彼女の願いも空しく、彼は乱れた髪の合間に見えるその首筋に唇をゆっくりと這わせていた。
「……好きなんだろ?」
耳元でそっとささやく甘い声に……握られている手の指先がしびれるような感覚が突き抜ける。
首にある彼の暖かい感触と熱い吐息に思わず声が漏れそうになった。
「っ……あなたが上手すぎるからでしょ」
彼女の色っぽく上気した頬に満足げな笑みを浮かべながら、片方の手だけ服のボタンを外している。
流れるような作業の中でも、彼は彼女の反応を楽しむことだけは忘れない。
首筋に余韻を残し、冷めないうちに彼女の唇を深く深く味わていく。
舌が舌を攻めていき、深くいやらしく絡ませ合いながら、彼の片方の手はすでに腰に伸びていた。
それは、徐々に彼女の理性を奪い甘く侵食していく。
次第にそれに答えるかのように、彼女の舌もそれに応じ、
無意識に手は彼の頬に触れ、角度を変えながら自分の方に引き寄せていた。
抵抗なんてできない。
彼は彼女のすべてを知り尽くし、巧みにその弱点をついてくるのだから。
どちらとも無くゆっくりと唇を離すと、彼はまだ熱を持った唇を開いた。
「……続けていいか?」
そう、彼の始まりはいつも突然で強引だった。
けれど、いつもこれ以上は無理矢理にしたりはしない。
必ず私に同意を求める。
ただ、あんな激しいキスをされて……止められるわけが無い。
この熱い体と高ぶった気持ちを受け止めて欲しい。
彼女の体はすでに、快感と悦びを激しく求めていた。
「……電気、消して」
彼女は喘ぎ声を上げた。
ベットのきしむ音と、その上で絡みあう二人。
淡黄色の広い部屋は生温かくて
甘い香りと、口から漏れる甘い声で満たされている。
……そして、どうしようもない絶頂感。
「……英理」
先程の余韻が深く残る体を起こして
傍らで無防備に横になっている彼女を見つめている。
小五郎の視線に気づいた英理は足元にあったシーツを体に覆いかぶせた。
「……何?」
「何でもない」
「?……私、シャワー浴びてくるから」
起き上がった拍子に、体に掛けられていたシーツがはらはらと床にこぼれた。
その色気に吸い寄せられるかのように
小五郎の両腕は、するする英理の腰を捕らえる。
「……? なんなのよ」
その言葉を放ち終わったのと同時に、彼女は言葉を発する事ができなくなった。
彼の唇に激しく舌を吸われたからだ。
有無を言わせない強引な行為でも、決して拒絶するような事はしなかった。
口に中で絡みあう舌と、
しっかりと握られた手、引き寄せられた腰。
「こんなことしたら……また止められなくなるでしょ」
ようやく開放された唇は、彼の愛撫の快感を堪えようと、
漏れる声を必死に耐えていた。
ゆっくりとベットの上に体を倒されて、彼の動きが止まる、
押し倒されたまま、2人はお互いを見つめ合った。
「……もう、やめられねぇな……」
彼女の火照った顔は、彼の欲望をいっそうかき立たせていく。
感度を増した彼女の胸の突起を口に含むと
英理はたまらず、堪えていた声を、無意識のうちに口に出していた。
彼はそんな英理を見て微笑み、今度は優しく手で弄ぶ。
「あぁ……っ……ん」
自分の手や唇で彼女の表情をここまで変えさせられる。
それが最高の悦びだった。
英理の喘ぎは俺を最高に高ぶらせてくれる。
このまま、英理の顔をずっと眺めているのもそれはそれで悪くは無い事だと思ったが
俺の中で息も絶え絶えな彼女を見ると、そういうわけにもいかないらしい。
ゆっくりと太腿に手を伸ばし、少しずつ焦らしながら彼女の中心に近づいていく。
英理の中の「女」が確実に俺を待っていた。
十分すぎるほど湿っている其処に、まずは指を入れていく。
「んっ……」
微かな声と共に、彼女は俺の背中に回していた手に力を込めた。
2本の指を中で動かしながら、わざと音を立ててみる。
「……お前も好きだなぁ……」
英理の顔を見ていると、わざと意地悪な事を言ってみたくなった。
「っあ、あなたの所為でしょう!?」
火照った顔で、珍しくむきになった英理は最高に可愛い。
素直に可愛いと思えるのはこんな時ぐらいになってしまったが。
だから、つい苛めたくなってしまう。
ようやく満ち足りた俺は、彼女の中に自分自身を沈めていった……。
「なぁ……英理……」
「ん。なぁに?」
英理は小五郎に腕枕をされながら、彼の目を見つめていた。
「お前さ……綺麗になったよな」
「なっ……・何いってんのよ!」
突然の言葉に英理は顔を赤くしてとっさに小五郎の体を押しのけようとした。
が、彼はそれを許さない。さらにきつく抱いた。
「……好きだ」
唇を耳にぴったりと付け、他の誰にも聞こえないようにいつもよりも低い声で囁いた。
……こういうシチュエーションでこんな事言うのは反則よ……
指先のしびれが、よりいっそうひどくなってく。
彼の胸の中は大きくて暖かくて、なぜか今日はとても優しい……。
「英理・・・・泣いてんのか?」
「あなたが急にそんなこと言うからよっ・・・・」
胸の中で泣き出してしまった英理の涙の冷たさがわかる。
泣くというよりは涙をおとなしく流しているというほうがあっているかもしれない。
もう片方の手を、そっと英理の頬に添えた。
「泣くなって……」
少し潤んだ彼女の瞳とぶつかる。
自然と彼は唇を近づけていった……
薄暗い部屋の中で、2人の唇はゆっくりと再び重なり合う。
彼女の涙は止まらなかった。
Fin