「……しばらく、挿れておいて」
情熱的な嵐は過ぎ去った。ベッドに横になり、後ろから挿入された状態で、深い深い快感に落とされたあと、ぼんやりした意識が戻ってくる。
後ろから回された太い腕に指を這わせつつ、胸に抱きしめた。
私の声は、甘えている。
営利目的誘拐、逮捕監禁、強制わいせつ未遂。
それらの言葉がふと頭に浮かんだ。明日は警察での取り調べもある。性犯罪は親告罪だ。告訴の準備もしなければならない。
告訴人は、私の名前。毛利英理。
代理人ではなく当事者として、自分の名前が入った告訴状。それを自らで作成することを思い描き、指先が小刻みに震えた。男三人を相手に、ギリギリで彼らの手に落ちなかったのは、奇跡だった。
急に現実が襲ってきて、私は怖くなる。
「いいぜ、このまま寝ちまっても」
眠そうな夫の声が、背中から聞こえた。
この余韻が消えてしまえば、私は現実に引き戻されてしまう。どうにか快感を離すまいと腕を強く抱き寄せると、彼もそれに応えるように力を強めてきた。
お腹の中が、温かい。心地よい一体感に心からホッとして私は鼻の奥がツンと痛くなり、目に涙がにじんできた。
この腕がなかったら、私は今頃。
すん……
小さく鼻をすすった。
私はバカだ。ドジで間抜けだ。そそっかしくて不用心だ。
そうやって、いつものように罵ってくれたら、私も普段の自分でいられたはずだ。
でも小五郎は私を優しく揺さぶって、そして強く抱きしめた。
緩やかな波のような快感を思い出して、ふと涙が零れそうになる。
いけない。
このまま甘えてしまっては、私は独りで居ることが、きっと恐ろしくなる。
「……タバコ、吸いたいんじゃないの」
私は涙声で言った。
彼はいつも、行為のあとに一服をする。
乱れた髪で、煙を燻らせる真面目な顔を思い浮かべた。
身体を気遣いながら、撫でる大きな手。
情熱が残った、少し厳しい目つき。
私は壁際に追い込まれる、哀れな牝鹿だ。
「今日はもう、切らしちまったよ」
夫はぶっきらぼうに言った。
その嘘は優しすぎて、少し残酷だ。
私は観念し、顔を歪めて
彼の腕をゆっくりと濡らしていった。
おわり